今日読んだ本からのお話です。
現在、英国王立音楽院協奏曲コンクール優勝など輝かしい経歴を誇るバイオリニスト川畠成道さんは、小学校3年生の時、祖父母がアメリカに観光旅行に行くことになり、夏休みの思い出にと一緒に連れて行ってもらうことになりました。
しかし、ロスアンゼルスについて早々風邪をひいて具合が悪くなってしまいます。祖父母が日本から持ってきた薬を飲んだところもっと具合が悪くなってしまい、お医者さんを呼んでもらうと、「扁桃腺が腫れているだけで心配はいらない」という診断。
診断とはうらはらに夜通し不快と苦痛に悩まされ、翌日は体にブツブツができ、呼吸も困難になってしまいます。通訳をしてくれた女性の知り合いのクリニックに行ってみると、すぐに風邪ではないと診断され、ここでは手に負えないのでということで、UCLAの病院に運ばれました。
翌日の診断では、スティーブンソン・ジョンソン・シンドロームという病気であることが判明。前身が赤くただれ、40度近い高熱がずっと続き、治る可能性は5%と言われながらも、医師や看護士の懸命の治療のおかげで命を取り留めることが出来ました。
しかし、目に後遺症が出てしまい徐々に視力が悪化、角膜が溶けてしまうような状態になり、川畠さんは目がほとんど見えない状態になってしまいます。
視力は日本に戻ってからも良くならず、両親は目が良くならないことを前提に、将来に向けて何かをさせようと考えて、好きだった将棋を習わせたいと考えます。しかし、近くに良い先生がおらず、目を使わずに耳から出来るということで、お父さんがやっていたバイオリンを学ぶことになりました。
10歳という年齢はバイオリンを始めてプロになるにはギリギリの年齢であったのですが、始めてバイオリンを持った川畠さんは、何の違和感もなくバイオリンを構えたのです。そして音を出すのも最初からスッといい音が出ました。音階の練習も基本を学んでいないにも関わらず、音の違いを聞き分けることが出来ます。
お母さんのお腹の中にいた頃から、お父さんのバイオリンを聴いて育ったおかげで、川畠さんには絶対音感が身に付いていたようです。
だからと言って、目がほとんど見えない状態でバイオリンを学ぶということは並大抵のことではありません。新しい曲は楽譜を読んで覚えないといけないのですが、両親は模造紙一枚に一小節という大きな楽譜を書いて壁に貼り付けるということをしていましたが、曲が長くなると模造紙は100枚にもなります。
演奏の時はその楽譜を見ながら弾くことは出来ないので、全てを暗譜してから練習するということになります。しかし、さらに視力が悪くなって、その大きな楽譜も読めなくなってしまいます。
そしてピアノやバイオリンで音をとってもらい、一曲全てを暗譜してから練習するということをしていきます。練習は学校のある日も8時間。休みの日は10時間以上練習する日が続きます。
そんな中、新しい先生の元でバイオリンを習いだして間もない中学一年生の時に、「日本学生コンクール」に出場し、3位という成績を収めます。優勝は出来ませんでしたが、その時のベストを尽くすことが出来たことでとても満足だったそうです。
川畠さんは子供の頃から、人の評価よりもまず、自分が良い演奏が出来たらうれしいと思う性格だったようです。それは8歳の時に視力を悪くして、その時から人と比べても仕方がない、自分は自分だという風に思わざるをえなくなったからなのでしょう、と彼は書いています。
大学生になって出場した「日本音楽コンクール」でも、3位という好成績を収めますが、この時もベストを尽くせた満足感があったそうです。
川畠さんは自分が出来るはずのことが出来ていないと、たとえそのことが他の人に勝っていたとしてもとても気になる。逆に自分のやるべきことがしっかりとできていれば、結果として人に負けたとしても納得できるのだそうです。人と比べても人が持っていて自分が持っていないものもありますし、自分が持っていて人が持っていないこともある。
結局、音楽の持っている一番大切なところは美しさだと思います。そのことを第一に考え、必要なところで必要なだけの音が出ていないとすれば、やはり美しさが欠けてしまうような気がします。まず、自分がこう弾きたいという欲求があり、それに対する必要性があってという順番になるのだと思います、と書いています。
1998年の11月27日にプロとしてデビューした川畠さんは、2000年の9月に思い出の地ロスアンゼルスでソロリサイタルを開き大成功を収めますが、当時彼の治療に当たってくれたスタッフやお世話になった人々を招待し、成長した彼の姿とその演奏を聴いてもらうことが出来ました。
健常者とは違うハンディを持って努力する人の感動的なお話という側面だけでなく、フィーリングスキーの本質というよりも、人間の本質というものを考えさせてくれるものだと思います。
「僕は、涙の出ない目で泣いた。」川畠 成道 (著)
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